2022年度共同研究プロジェクト 植村玄輝
採択課題名
論証の再構成を超えて-哲学史研究における「ビッグ・ピクチャー」に関する事例研究
メンバー一覧(氏名、所属)
植村 玄輝 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
仲田 公輔 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
井頭 昌彦 | 一橋大学社会学部 |
稲葉 肇 | 明治大学政治経済学部 |
研究の概要
本研究の目的は、哲学史研究は論証の再構成への過度の偏重を抜け出るべきなのか、もしそうであるならば、哲学史研究は論証の再構成に加えて何を目指すべきなのかを検討することにある。哲学にとって論証がもっとも重要な手続きのひとつである以上、哲学史研究が過去の哲学的なテクストから論証を取り出して整理することにもっとも力を注ぐのは、ごく自然なことだろう。しかしながら哲学史研究のこうした特徴は、過去のテクストが属する文脈や、哲学者たちの議論が持っていたはずの同時代のその他の出来事との関係をあまりに軽視する傾向を生み出してきた。本研究では、こうした傾向に関するこれまでの批判を踏まえつつ、冒頭に挙げた一連の問題、あくまでも個別の事例に即したかたちで検討する。その際とりわけ重要になるのは、哲学史研究がその個性を保ったまま「ビック・ピクチャー」を掲げることができるのかという問いである。
研究実施状況
本年度の研究は、(1)メンバーによるオンラインでのディスカッション、として(2)ゲストスピーカーを招いた対面での公開型研究会を準備するというかたちですすめられた。(1)はSlackを用いた非同期型でおこなわれ、主に哲学史研究に関する近年の議論をフォローしつつ意見交換をするという内容となった。ここで得られた知見も踏まえつつ準備された(2)では、ケーススタディによる哲学史研究の哲学を中心としたプログラムを組み、6名のゲストスピーカーによる講演が行われた。なお、本研究会は科学研究費(若手研究)研究課題「19世紀ドイツ哲学における心理主義―新カント派黎明期を中心として―」(21K12830。研究代表者:辻麻衣子)との共催で行われ、第2部(太田匡洋『もう一つの19世紀ドイツ哲学史』合評会)は、同科研費の研究代表者辻麻衣子氏のオーガナイズによるものである。
研究成果の概要
先述の公開型研究会「哲学史研究は何をするのか」(岡山大学、2023年3月16–17日)のうち、本プロジェクトと直接関係する第1部では、以下の発表が行われた(第2部を含めたより詳しいプログラムについては以下を参照https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/75698/dccfed1cf55fa565917e20c45fcf7aa8?frame_id=708431)。
・佐藤駿(岩手大学)「再構成と解釈――哲学史のスタイルについて」
・酒井健太朗(環太平洋大学)「哲人王と教養——プラトン『ポリテイア』における洞窟の比喩の解釈をめぐって」
・津田栞里(一橋大学)「合理主義哲学と敬虔主義神学の対決――スピノザ論争史としての18世紀ドイツ哲学史再編に向けて(仮)」
・辻麻衣子(清泉女子大学)「もう一つの『言語起源論』——テーテンスとヘルダー」
・入江祐加(香川大学)「哲学は学問であるべきか?――ディルタイとハイデガーにおけるアウグスティヌス研究の位置づけ――」
・木本周平(東京都立大学)「アプローチとしての概念史:カッシーラーの概念形成論は誰を批判していたのか?」
本研究会にはプロジェクトメンバーから仲田公輔(西洋史)、井頭昌彦(現代哲学・社会科学方法論)、稲葉肇(科学史)も、哲学史研究を専門としない立場からディスカッサントとして参加した。こうしたセッティングもあいまって、本研究会は、細分化と専門化によって哲学史研究者同士の相互理解が必ずしも容易ではなくなっている現状について、「事例にもとづいた方法論的な考察」という包括的な議論の枠組みの提案になっていたと考える。