2022年度共同研究プロジェクト 西田陽介
採択課題名
地域における芸術文化活動のウェルビーイングに与える影響に関する研究
メンバー一覧(氏名、所属)
西田 陽介 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
釣 雅雄 | 武蔵大学経済学部 教授 |
青尾 謙 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
Anass Barrahmoune | 岡山大学・大学院予備教育特別コース |
Peter Matanle | シェフィールド大学・東アジア学部 |
研究の概要
瀬戸内地域は瀬戸内国際芸術祭、岡山芸術交流など芸術祭が開催され、岡山県は全国で6番目に美術館の多い県となっている。このような芸術文化活動は地域住民の幸福感や交流人口の増加をはじめ地域活性化の役割が期待されている。他方、その活動の効果については観光客数や経済波及効果などの定量的な分析はあるものの、地域や参加者にどのような影響を与えているかは今後の研究課題である。地域がそれぞれの特徴を活かして自律的で持続的な社会を創生していくためには地域創生における活動が地域、参加者に与える効果を検証し、持続的な取り組みとしていくことが必要とされる。
SDGsの目標にも掲げられ、達成するための価値観の基準ともいえるウェルビーイングは肉体的、精神的、社会的に満たされた状態を指している(世界保健機構, 1946)。また、ウェルビーイングは経済的な豊かさと必ずしも連動するわけではなく、国や地域によっても異なっている。本研究では瀬戸内地域を対象として、①地域のウェルビーイング指標の構築、②芸術文化活動が地域のウェルビーイングに与える影響を明らかにすることを目的とする。本年度は、① 地域のウェルビーイング指標構築に向けた大規模データの分析、及び、瀬戸内国際芸術祭、岡山芸術交流が実施されることを踏まえ、② OECDガイドラインや先行研究を活用した芸術祭参加者へのアンケート調査の実施を行う。
研究実施状況
釣と青尾の両名は、ウェルビーイング(Well-being)概念とOECD等におけるその計測指標の変遷について検討し、更にそれに基づき、OECDや日本の統計データを用いた実証分析を行った。また大学院生のAnass Bharrahmoune氏は青尾並びに英シェフィールド大学のPeter Matanle博士と共同して人新世(Anthropocene)における環境・人口・社会各分野の危機をめぐる文献調査を行い、これまでの議論を整理した。
西田は、持続的な地域づくりの視点から、美術館、芸術祭を対象として芸術文化活動におけるマネジメント上の課題を文献調査、ヒアリングを通じて整理した。
研究成果の概要
釣・青尾はウェルビーイング概念が2000年代の世界経済危機を経て、主観的幸福や健康といった当初の意味を超えて、社会的関係性や環境、安全といった、より複合的な要素に基づく政策指標として成長・定着しつつある状況を明らかにした。また実証的データから、経済的要因と社会的要因には非対称的な関係性があること(経済要因が厳しいときには社会的要因は主観的幸福と相関関係を見せず、経済要因が向上してくると社会的要因が相関してくること)を確認した。Bharrahmouneはこれまでの議論では独立した危機と見なされがちであった人新世における環境・人口・社会要因を、統合したアプローチで検証することの重要性を指摘した。なお成果として、以下の論文2篇を学術誌に投稿中である。
Tsuri, M. and Aoo, K. “How is Subjective Well-being Being Affected by Different Factors, and Groups: Income Threshold Induces Asymmetric Effects”, 『文明動態』投稿中.
Bharrahmoune, A., and Matanle, P. “Framing the Anthropocene Crisis: A Tripartite Nexus Vision for Environmental, Population, and Societal Change”, The Anthropocene Review 投稿中.
西田は芸術文化活動、なかでも美術館と芸術祭を対象とし、地域活性化の視点からマネジメント上の課題について考察を行った。美術館や芸術祭は入場料や物品販売だけでは運営上の費用を賄うのが極めて困難であり、非受益者からの幅広い支援を得ることが持続的な活動には不可欠となっている。美術館や芸術祭のマネジメント、及びそのステークホルダーのヒアリングを通じて、マネジメント上の課題を把握、事例研究から持続的運営に関する探索的な検討を行った。成果として以下の論文を投稿した。
西田陽介(2023)「持続的な地域づくりにおけるアートマネジメントの探索的検討」『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』第55号、31-44頁。