2022年度共同研究プロジェクト 松岡弘之
採択課題名
長島愛生園の歴史資料・文化資源の継承にむけた基盤構築
メンバー一覧(氏名、所属)
松岡 弘之 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
伊藤 駿 | 岡山大学・教育学域 |
木下 浩 | 岡山大学・医学部/長島愛生園歴史館 |
才士 真司 | 岡山大学・教育学域 |
田中 キャサリン | 兵庫県立大学・国際商経学部 |
パクミンジョン | 岡山大学・環境生命科学学域 |
研究の概要
1990年代以降、日本のハンセン病問題に関する人文社会科学研究は、1909年に開始された隔離政策がもたらした患者らへの人権侵害に関する実態解明を中心的な論点として取り組まれてきた。こうした成果は、1996年のらい予防法廃止や、2001年のらい予防法国家賠償請求訴訟熊本地裁判決の学問的枠組みを提供し、現在でも啓発において大きな影響力を持っている。だが、そこでの入所者はしばしば隔離にもとづく被害者としてのみ捉えられた結果、入所者自身が療養生活を意義あらしめるために取り組んだ運動や芸術文化活動などに関する研究は十分になされてきたとはいえない。本研究は、初の国立癩療養所として設立された長島愛生園(岡山県瀬戸内市)において、近年になって所在が確認された園や入所者が作成した歴史資料、絵画作品など文化資源について調査・研究を進めるとともに、その継承に向けた課題等をあわせて検討し、今後の活用基盤を構築するうえでの基礎的研究を行う。
研究実施状況
昨年度に引き続き長島愛生園施設管理課保存資料の目録化を進め、同文書群には簿冊508冊のなかに図面5,007点が存在することを確定した。これを踏まえて、撮影手法を検討したうえで、283冊を撮影対象として抽出した後、本年度に26冊の撮影を完了した。こうした園内の建築や景観に関する歴史的変遷等に関してセミナーで報告したほか、投稿論文を発表した。
また、昨年度撮影した島田等資料のうち森田竹次のメモの内容について検討する一方、洋画家・清志初男(1926-2020)の履歴、および療養所内で作成された詩歌を中心とする文芸作品についても調査を継続した。これらの過程で入所者が1930年以来継続的に取り組んだ愛生園内で気象観測所の観測資料(約200点)が確認され、今後詳細な内容の確認を進めることとしている。
これらハンセン病療養所における歴史資料の保存と活用の検討のため、療養所職員を対象に公文書管理の動向を中心とした各地の取り組み状況を報告し、その内容を療養所が発行する刊行物において発表した。また、愛生園内を撮影した写真を分析し、その成果の一部を岡山大学附属図書館ムラタアカデミアで展示した。
研究成果の概要
長島愛生園内で確認された未整理資料の評価・分析に取り組み、以下のような成果を挙げた。
【出版】
PARK, M, OTSUKI, T. The Formation Process and Changes in Patients’ Housing in Nagashima-Aiseien, the First National Sanatorium in Japan. International Planning History Society Proceedings, 19th IPHS Conference, City-Space-Transformation 19(1) 477-488, 2022.07
パクミンジョン「国立療養所長島愛生園における十坪住宅の登場と患者住宅整備の変遷」(『日本建築学会大会学術講演梗概集 E-1』995-996、2022.09)
松岡弘之「第90回瀬戸内集談会講演 ハンセン病関連資料の継承のために(上)」(『愛生』76(6)、2022.12)
松岡弘之「和志美最堂のみた外島保養院―「一河の流れ」を読む」(『ふれあい福祉だより』(23)、2023.12)
松岡弘之「第90回瀬戸内集談会講演 ハンセン病関連資料の継承のために(下)」(『愛生』77(1)、2023.1)
松岡弘之「長島愛生園と邑久光明園―「自治」からみたハンセン病」(岡山大学文明動態学研究所編『大学的岡山ガイド』昭和堂、2023.3)
才士真司「長島に生きた石仏の画家 清志初男」(岡山大学文明動態学研究所編『大学的岡山ガイド』昭和堂、2023.3)
【講演・口頭報告】
松岡弘之 2022.7.7 「ハンセン病関連資料の継承のために」(国立療養所長島愛生園・邑久光明園・大島青松園主催第90回瀬戸内集談会、於:メルパルク岡山)
パクミンジョン,松岡弘之 「入所者の住宅からみた長島愛生園の歴史」(第14回RIDCマンスリー研究セミナー 2022.7.20、オンライン)
【展示】
「長島愛生園歴史館蔵「ガラス乾板写真」を読み解く「日出(ひで)」の定点観測」(年代比定監修パクミンジョン、於、岡山大学附属図書館ムラタアカデミア、2022年4月~)