2021年度共同研究プロジェクト 岩﨑 志保
採択課題名
ICT技術による文化資源の社会化と活用に関する実践的研究
メンバー一覧(氏名、所属)
岩﨑志保 | 岡山大学・埋蔵文化財調査研究センター |
山口雄治 | 岡山大学・埋蔵文化財調査研究センター |
津村宏臣 | 同志社大学・文化情報学部 |
笹倉万里子 | 岡山大学・自然科学学域 |
研究の概要
2018年の文化財保護法の改正(2019年施行)により、文化財の総合的な活用として、歴史文化遺産のまちづくりや観光への活用がより重視された。同じく2018年の独立行政法人文化財活用センター設置により、文化財の活用・貸与や保存・情報の集積等の積極的な活動が開始されている。
こうした流れのなか、地域では特に文化財・文化遺産を、文化資源として社会化することが、それらの有効な活用を図るために必要である。
本研究では、岡山大学構内遺跡のひとつである鹿田遺跡をフィールドに、地域社会と遺跡・歴史との親和性を構築するため、ICT技術を活用した広報コンテンツを製作する。その過程においては、コンテンツへのICT技術の有効な利用法を検討し、VR・AR・MRを取り入れた調査成果の発信を具体化する。
研究成果の公開にあたっては、学内および地域社会で、講座やWEBを通じた情報発信の場を創出する。
考古学・文化情報学・情報工学の研究者による共同プロジェクトである。
研究実施状況
6月に対面での打ち合わせを実施し、計画・分担の確認を行った。岡山大学鹿田遺跡の調査成果について弥生時代の集落景観を組み込んだVR・ARコンテンツを構築し、さらにタブレットでの視聴可能な形態にする、という方向性を確認し、コンテンツの内容検討、出土遺物のSfm撮影、関連資料のデータ計測、Ipad視聴に関する技術的検討をそれぞれ実施することとした。作成するコンテンツは、小中学生向け講座および展示会等での一般公開を念頭とする。
10月には、既存のVRコンテンツのデモンストレーションを実施し、今後の作業確認を行った。
10月~2月に、鹿田遺跡の出土遺物のSfm計測、集落景観の素材計測として、岡山市津島遺跡でのデータ計測を実施。その間、コンテンツの展開等具体的な内容を協議した。
2月~3月にVRコンテンツの構築を実施。広報媒体としてカードの印刷を完了した。
研究成果
本年度は、岡山大学鹿田遺跡の調査成果から、弥生時代の集落景観情報をもとにVR・ARコンテンツを構築するべく、出土遺物のSfm撮影ならびに住居・井戸に関して関連資料のデータ計測を実施した。また遺跡立地をビジュアル化するため、カシミールを用いた鹿田遺跡周辺景観の復元および花粉分析成果を反映した植生復元を試みた。さらに鹿田遺跡マスコットキャラクター「しかたん」によるナレーションを想定し、声についてのアンケートを実施した。
一般向けあるいは小中学生向け遺跡ガイダンスコンテンツを最終形態とし、VRヘッドセットで視聴するコンテンツとともに、Ipadでの動画視聴をするべくその方法・技術について検討した。今年度については鹿田ムラ体験VRの試作までが完了した。さらに広報素材としてVR体験を紹介するカードサイズの印刷物を作製した。
本年度の研究は新型コロナ禍での移動制限による影響を少なからず受けたものとなり、対面での打ち合わせ回数や、データ計測のための人員を縮小せざるを得なかった。そうした状況下でもコンテンツ制作について、遺跡内容の検討やデータ計測に関する技術的検討を実施したことで、遺跡への理解や成果公開についてのイメージを深めることができた。今後、遺物・遺構数を量的に増加をはかり、またコンテンツ対象について別時期も追加するなど、活用幅を広げるための土台を構築できた。
児童・生徒向けの講座や展示会での公開は、適切な機会がなく成し得なかった。今後の状況を見ながら機会を創出し、実際の反応を得てコンテンツの充実を実施できるよう検討したい。