2021年度共同研究プロジェクト ライアン・ジョセフ
採択課題名
古代吉備における製鉄の実態解明に向けた考古学・文献史学・地球科学的共同研究
メンバー一覧(氏名、所属)
ライアン・ジョセフ | 岡山大学・社会文化科学学域 |
光本順 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
鈴木茂之 | 岡山大学・自然科学学域 |
野坂俊夫 | 岡山大学・自然科学学域 |
今津勝紀 | 岡山大学・文明動態学研究所 |
山本悦世 | 岡山大学・埋蔵文化財調査研究センター |
岩崎志保 | 岡山大学・埋蔵文化財調査研究センター |
池端慶 | 筑波大学・生命環境系 |
長原正人 | 日本鉱業史研究会 |
吉江雄太 | 奥会津地熱株式会社 |
研究の概要
本研究の目的は、製鉄遺跡出土の製鉄原料と、周辺の露頭から採取した鉄鉱石試料を地球科学的手法により比較し、その関係性を検証することにより、古代吉備における製鉄原料の入手経路やそれを軸とした地域間関係を明らかにすることである。日本列島における最古級の製鉄遺跡は、古代吉備で多く確認されているが、鉄鉱石などの製鉄原料が、県内外を含め、どこからもたらされていたかが明らかにされておらず、それらの原料調達の集約性または多元性も不明のままである。すなわち、古代吉備において多大なる社会的・政治的意義をもつ製鉄開始は現象面として知られているが、その実態に関する理解が不十分である。そこで、遺跡出土製鉄原料と吉備地域の露頭に産する鉄鉱石の化学組成を比較する本研究を通じ、製鉄操業に至る実態解明を目的とする。また、考古学と文献史学の検討を通じ、古代吉備における製鉄遺跡の地域史への位置付けを試みることとする。以上により、本研究は、古代吉備における手工業生産の社会的・政治的実態に関する理解に大きな影響を与えることが期待される。
研究実施状況
本研究の主要な目標は、遺跡出土の製鉄原料および露頭から採取した鉄鉱石試料の両者を地球科学的手法により比較し、その関係性を検証することであるが、新型コロナウイルス感染症の影響により、遺跡出土鉄鉱石の所蔵機関への調査や県外の研究者の来岡が長期間実現できなかったため、本年度は定期的な打ち合わせをしながら、自然露頭の踏査および試料採取や、遺跡出土鉄鉱石に関する考古学的・地球科学的情報の基礎的整理に加え、国内外の鉄生産や製鉄原料調達の比較検討を中心として作業を遂行した。遺跡出土鉄鉱石の所蔵機関への調査が可能になってから、県内外の研究者とともに古代吉備文化財センターと総社市埋蔵文化財学習の館に赴き(それぞれ3回)、出土資料を熟覧した上で、分析に適した試料の選定を行なった。来年度以降の本格的な分析に備え、基礎的な整理および試料の準備を遂行することができた。また、遺跡出土鉄鉱石をできるだけ外観を損なわずに分析する手法として、ウォータージェット切断を利用する方法の予備的実験を行なった。
研究成果
岡山県の主な磁鉄鉱試料(柵原鉱山、河本鉱山、三原鉱山、三宝鉱山、八代鉱山、占見鉱山、美袋採石場)の顕微鏡観察およびEPMA分析用薄片試料を作成し、顕微鏡観察を行ない、各鉱石の特徴の違いを観察した。吉備地域周辺(岡山県から広島県東部)における製鉄原料供給を検討するため、既存の論文、鉱物資源報告書から古文書、さらに中国経済産業局より入手した鉱区図謄本を利用して磁鉄鉱産地候補地を抽出した。これに基づいて八代地区、清音地区、足守地区、金谷地区、黒谷地区、野々口地区、金山地区で野外調査を行ない、そのうち八代鉱山、金山鉱山、清音鉱山で磁鉄鉱試料を採取することができた。古代吉備文化財センターと総社市埋蔵文化財学習の館に収蔵されている、下坂遺跡、辺谷遺跡、原尾島遺跡、白壁奥遺跡、千引カナクロ谷遺跡、板井砂奥遺跡の出土鉄鉱石を熟覧した。いずれも磁鉄鉱を含み、鉱石の産状と特徴は多様である。
多くはスカルン鉱床のものであるが、それ以外のものもあった。同一遺跡出土の資料でも、異なる産地が想定される場合がみられた。これらの多様な組織と組成からなる試料はシステマティックに顕微鏡などで観察し記載した上で、EPMAおよびLA-ICP-MSの装置を利用して磁鉄鉱の分析を行う方向で検討中である。また、遺跡出土資料を分析する場合、一部分のみを抽出する必要がある。抽出しても資料の外観をできるだけ損なわないことが望ましい。ウォータージェット切断の技術を用いると打撃や衝撃なしで一定の部分を取り出すことができる。6試料の粒度や風化程度が異なる自然の鉱石を用いて実験し、厚さ1㎝程度の切片であれば1箇所の外見の傷で内部を取り出すことができることを確認した。