2023年度共同研究プロジェクト ライアン・ジョセフ
採択課題名
古代吉備における製鉄原料産地の実態解明に向けた考古学・文献史学・地球科学的共同研究
メンバー一覧(氏名、所属)
ライアン・ジョセフ | 岡山大学・文明動態学研究所 |
今津 勝紀 | 岡山大学・文明動態学研究所 |
木村 理 | 岡山大学・文明動態学研究所 |
鈴木 茂之 | 岡山大学・自然科学研究科 |
中村 大輔 | 岡山大学・自然科学研究科 |
中村 栄三 | 岡山大学・自然生命科学支援センター |
池端 慶 | 筑波大学・生命環境系 |
長原 正人 | 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構、資源探査部 |
吉江 雄太 | 奥会津地熱株式会社生産部技術係 |
上栫 武 | 岡山県教育庁文化財課 |
武智 泰史 | 倉敷市立自然史博物館 |
研究の概要
古代吉備は、「鉄大国」と評価されるほど製鉄が盛んに行われていた。鉄の生産と流通は、吉備の中の集団間関係、そして古代国家との政治的関係を左右していたと考えられる。従って、吉備の社会・経済・政治史を正しく理解するため、鉄生産の実態解明は必要不可欠である。ただし、伝統的な考古学や文献史学の研究では、従来の認識を超え、研究を深化させることは困難であると言わざるを得ない。とくに、製鉄原料がどこから入手されたか、そして生産された鉄素材がどこに供給されたかは未だに不明であり、実態把握を困難にしている。そこで、本研究プロジェクトの目的は、製鉄遺跡出土の鉄鉱石や鉄滓と、露頭産出の鉄鉱石を鉱床学的・地球科学的手法により比較し、その関係性を検証するとともに、その成果を考古学的・文献史学的に評価し、古代吉備の動態を明らかにする。このように、研究現状の打破を可能とする文理融合の学際的研究を通じ、新しい「鉄学」の創出を目指す。
研究実施状況
今年度は、自然露頭に産出する磁鉄鉱試料を対象に電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)分析および顕微鏡観察を行った。また、今後の成果発表にかんして打ち合わせを行い、研究論文投稿の準備を進めた。
研究成果
今年度は、昨年度のRIDC共同研究で採取した山の自然露頭に産出する磁鉄鉱試料を対象に業者に薄片作成を依頼し、納品されたこれらの薄片を基に電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)分析を行い、磁鉄鉱ほかザクロ石など鉱床を構成する鉱物の化学組成にかんするデータが得られた。自然露頭に産出する磁鉄鉱試料と古墳時代の製鉄遺跡で出土する磁鉄鉱資料との比較研究を通じて合致するか否かの判定ができる重要な成果といえる。また、同試料の顕微鏡観察も実施し、鉱石の鉱物と組織の記載も判定する上でたいへん有力なデータとなる。今年度の以上の研究成果は、古墳時代における磁鉄鉱の調達方式を解明するうえで重要な示唆に富むものと評価できる。
また、磁鉄鉱試料の薄片を今後レーザーアブレーションICP質量分析(LA-ICP-MS)に供する予定であるが、その準備が整った。来年度、速やかにLA-ICP-MS分析を実施し、すでに得られているデータとの突き合わせの上、総合的な考察を行う予定である。さらに、今年度の成果を踏まえ、総合地球環境学研究所の2024年度同位体環境学共同研究(S)「人・モノ・自然プロジェクト」連携公募共同研究に応募し、採択されたため、2024年度は磁鉄鉱試料の鉛同位体比分析を実施する予定である。上記の研究成果と合わせ、古代吉備における製鉄操業の実態をより解像度の高いレベルで明らかにすることを目的とする。
現在までの鉱床学・地球科学・考古学的調査の研究成果をまとめた研究論文を共同研究のメンバーで執筆し、来年度の刊行を目指し投稿する準備を進めている。