2023年度共同研究プロジェクト 津守貴之
採択課題名
機能低集積地域の持続性に関する日台比較研究
メンバー一覧(氏名、所属)
津守 貴之 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
北川 博史 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
福重 さと子 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
土岐 将仁 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
佐藤 淳平 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
天王寺谷 達将 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
田代 滉貴 | 岡山大学・社会文化科学学域 |
駄田井 久 | 岡山大学・グローバル人材育成院 |
蔡 錫勳 | 台湾淡江大学・日本政経研究所 |
胡 慶山 | 台湾淡江大学・日本政経研究所 |
小山 直則 | 台湾淡江大学・日本政経研究所 |
徐 浤馨 | 台湾淡江大学・日本政経研究所 |
研究の概要
今年度の本研究の目的は、日本と台湾の果樹栽培をしている農村社会を対象にそこでの機能低集積状況を比較調査研究することによって、社会の様々な機能を低下させつつある農村社会の持続性の課題あるいは条件を整理することにある。具体的には、①関係人口、交流人口を活用した農村社会維持の可能性とその条件の調査研究、②日本から台湾への水島港、岡山空港を使った果物輸出のマーケティング、生産、ロジスティクスの3つの側面における条件および課題の整理、③農業活性化を起点とする産業連関再構築の課題と可能性の分析、④グローバル化が進み、インターローカル化が一般化している状況のもとでのフラグメンテーションとは異なる新たな産業集積パターンの特定、の4点である。なおこれらの調査研究・分析を経済学、経営学、会計学、法学、政治学、歴史学、地理学、農業経済学等、多様な分野からのアプローチで進める。
研究実施状況
本共同研究はJST「共創の場形成支援プログラム(育成型)」である「ダイバーシティ農業地域イノベーション共創拠点」の活動と連携して調査・研究を進めた。具体的には国内実態調査(農村・農家調査、行政の農業関連施策調査、農機具メーカーヒヤリング、食品加工メーカーヒヤリング、物流事業者調査等)と海外調査(タイ、シンガポールにおける小売店・流通業者調査)を行った。また市場出荷時期の空間的・時間的分散の仕組みの構築による新規市場の開拓も検討しており、その一環として冷凍農産物の適切な解凍技術・機器の開発を工学部の研究者と開始した。
研究成果
岡山の複数の桃産地やタイ、シンガポールの小売市場を調査し、次の点を明らかにした。第1に成功している産地においては高度な栽培技術を持つ農業技術者であるとともに産地全体の運営を主導的に行う優れた経営者能力を持つリーダーシップを持つ熟練就農者=産地リーダーが存在すること、この産地リーダーを再生産する環境整備が農村・中山間地域の維持・活性化にとっては不可欠であることを明確にした。第2に、これら産地リーダーはアナログの栽培技術を毎年更新・高度化させているとともに、出荷先市場を空間的に分散させるか、時間的に分散させるかのいずれかで市場における需給の緩和を回避し、出荷価格の下落を抑制していることも整理した。出荷先市場の空間的分散とは、桃という農産物は収穫・消費時期が短いことから同じ市場に出荷が集中すると出荷価格が大幅に下落する傾向にあるため、地元の岡山市場だけでなく東京市場や海外市場等に出荷先を分散させ、供給過剰にならないようにすることである。また時間的分散とは同じ岡山市場に出荷するとしても、出荷日をずらすことで時期的に出荷が集中しないようにするという意味である。産地リーダーは市場動向を見ながら、この2つのいずれかを選択して機敏に対応している。また人口減少が進む日本国内市場は縮小傾向にあるが、東南アジアをはじめとする成長市場において日本産の農産物の需要が大きくなっていることも確認できた。
これらの成果については2024年3月18日に行ったwebシンポジウム「新しい産業としての農業の確立に向けて」(パネリスト:秋山陽太郎総社もも生産組合長、石原弘道岡山県農林水産総合センター長、木下寛子ELN社長、福田文夫岡山大学学術研究院環境自然科学学域教授、逢坂大樹同医歯薬学域助教、林靖彦同環境自然科学学域教授、ファシリテイタ:津守貴之)を収録し、それまでに収録していた現地調査の録画を組み合わせた動画を近日中に公開予定である。