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共同研究プロジェクト 山口雄治

採択課題名

中央アナトリアにおける都市社会の動態と気候変動

メンバー一覧(氏名、所属)

山口 雄治岡山大学・文明動態学研究所
紺谷 亮一ノートルダム清心女子大学・文学部
フィクリ・クラックオウルアンカラ大学・言語歴史地理学部
チェティン・シェンクルスレイマン・デミレル大学・地理学部

研究の概要

気候変動と文化・文明の盛衰との関連には古くから議論がある。本研究が対象とする西アジア地域においては、ボンド・イベントとして知られる地球規模の寒冷化との関連、すなわち8.2kaイベントと農耕の開始・拡散、4.2kaイベントと都市社会の崩壊などが取り上げられてきた。その一方で、古環境データの不足や曖昧さもあって多くの反論も提出されてきた。しかし、近年では時間目盛りの精密化、分析技術の発展、分析対象の多様化を背景として、この問題に対する再検証の動きが世界的規模で行われている。

本研究では、西アジア周縁域(中央アナトリア:現トルコ共和国中央部)を対象とし、考古学と古生態学の協業を通して、前3~2千年紀前半における気候変動と都市社会の動態との関連について考察することを目的とする。具体的には、①キュルテペ遺跡の発掘調査と出土資料の分析、②年代測定、③キュルテペ遺跡周辺湖沼から採取されたボーリングコアの分析を行う。

研究実施状況

採択後、情報共有および研究計画についての打ち合わせを行った。7月末にトルコ共和国で開催されたKültepe International Meeting 5(KIM5)にて研究発表を行い、8月からトルコ共和国カイセリ県に位置するキュルテペ遺跡の発掘調査を行った(山口・紺谷・クラックオウル)。年代測定サンプルを採取し、帰国後、(株)パレオ・ラボに年代測定の分析委託を行った。1月に発掘調査整理作業と分析の結果を共有し、口頭および論文発表の方法について検討を行った。なお、ボーリングコアの分析は現在も継続して行われている(シェンクル・山口)。

研究成果の概要

7月末にKIM5にてこれまでの現状と課題を整理した発表を行った(Kontani, R., F. Kulakoğlu and Y. Yamaguchi 2022 Material culture of Late Chalcolithic Age at Kültepe: excavations at central trench, Kültepe 2021. 5th Kültepe International Meeting(KIM5) , Kayseri, Turkey.)。8月からトルコ共和国カイセリ県に位置するキュルテペ遺跡の発掘調査を行った。これまで検出されていたジグザグ大型建築址の内部を掘り下げるとともに、プランを明確にするために調査区を拡張した。さらに、調査区区北西部に深掘坑を設定し、地表下約6 mまで調査した。これにより、これまでの調査成果(山口2022)および今回の調査・年代測定の結果から、紀元前4千年紀後葉~3千年紀末までの考古資料を得ることができた。

これまで紀元前3千年紀後葉(前期青銅器時代III期:EBIII)において公共建築物と考えられる大規模建築址が検出されていたが、それ以前の様相が不明確であった。今回の成果により紀元前4千年紀末~前3千年紀初頭(後期銅石器~前期青銅器時代I期)においても、ジグザグプランを呈する大規模建築址を確認することができた。本例はこの時期のアナトリアでは例をみない遺構であり、その実態解明が期待されるものとなったが、本研究目的との関連でいえば、4.2kaイベントとの関連も想定されていたEBIIIにおける大規模建築址は、突如出現したわけではないことが明らかになった点において有意義なものとなった。出土土器の変遷については現在執筆中であるが、器種構成、色調、製作技術等の変化からいくつかの段階区分が可能となり、本地域における土器編年の基礎として近く論文として公表する予定である。

ボーリングコアの分析では、湿潤・乾燥化のサイクルがあったことは確かめられた。しかし、時期を特定するための炭化物サンプルがコア中から見つけられていない。そのため、時期比定の詳細は現在も分析中である。

今回の成果については、その一部について発表を行った(紺谷亮一・山口雄治・フィクリ・クラックオウル2023「中央アナトリアにおける銅石器時代解明へ向けて─キュルテペ遺跡中央トレンチ発掘調査 2022年─」第30回 西アジア発掘調査報告会 於:池袋サンシャインシティ文化会館)。今後も、気候変動と文化動態の高解像度化およびその対応関係に関する研究が求められる。

山口雄治2022「キュルテペ遺跡の赤黒土器-紀元前4-3千年紀の地域間交流-」『西アジア考古学』23 日本西アジア考古学会 101-110頁