HOME / プロジェクト / 2021年度共同研究 / 共同研究プロジェクト 中谷文美

共同研究プロジェクト 中谷文美

採択課題名

性差(ジェンダー/セックス)への異分野横断的アプローチ:カテゴリー化を再考する

メンバー一覧(氏名、所属)

中谷文美岡山大学・文明動態学研究所
松本直子岡山大学・文明動態学研究所
清家章岡山大学・社会文化科学学域
藤井和佐岡山大学・社会文化科学学域
光本順岡山大学・社会文化科学学域
片岡仁美岡山大学病院・ダイバーシティ推進センター
松田祐依岡山大学病院・総合内科
大澤貴美子岡山大学・グローバル人材育成院
伊藤詞子京都大学・野生動物研究センター
武内今日子東京大学大学院・人文社会系研究科/日本学術振興会

研究の概要

 本研究は、男/女、あるいはジェンダー/セックスの二分法に基づいて記述・分析されてきた性差・性別のあり方をそれぞれの分野の「常識」的理解と照合しつつ、異分野横断的視点から再考することを目的としています。具体的には、考古学、文化人類学、社会学、政治学、医学、霊長類学と文理にまたがる多様な分野の、かつ年代も異にする研究者が、それぞれの分野で当然視、あるいは疑問視されている性差理解を俎上に載せます。
 ジェンダー/セックスに関する研究蓄積はすでに膨大にありますが、一般社会においてその成果が十分理解され、また浸透しているとはいえません。
 このような現状を踏まえ、各学問分野において主流となっているジェンダー/セックス、そしてセクシュアリティの理解や分析手法をめぐる現状と課題を明らかにしつつ、一定のリアリティに根差した性の違いが意味を持つ場面と持たない場面、意味を持たないにもかかわらず強調される場面など、性に基づく差異とそれに付与される意味をめぐる様相が多様であることを確認します。その上で、分野ごとのアプローチの特性や、逆に当然視されていた課題設定の問題点を明確化することをめざしています。
 また、理念レベルにとどまらず、具体的な事例(考古遺物に現れる性差の同定、チンパンジーの生殖行動など)に即した議論を行うことで、他分野やひいては一般社会に対してジェンダー/セックスに関する研究成果をよりわかりやすく伝える方法を探ります。

研究実施状況

本年度は、5回にわたって研究会を開催した。新型コロナウイルス感染拡大状況が収束を⾒なかったため、すべてオンラインで実施せざるを得なかったが、メンバー全員がほぼ全ての回に出席し、有益な意⾒交換を⾏うことができた。各回の発表テーマ・発表者は以下の通りである。
第2回〜第4回は、メンバーそれぞれが取り組んできたテーマを中⼼に報告を⾏ったが、専⾨分野のみならず、年代や経歴も多彩なメンバーが集まった共同研究ならではの、多彩な⾓度からの議論が⾏われた。
第5回は2名の外部講師をお招きし、現共同研究メンバーではカバーできない生物学的性差とGIDのテーマを取り上げた。

第1回 6⽉16⽇ 顔合わせ、各⾃の⾃⼰紹介プレゼン
第2回 7⽉12⽇
「とあるチンパンジー集団における⽣と性」伊藤詞⼦(霊⻑類社会学)
「弥⽣・古墳時代の⼥性と戦争」清家章(考古学)
「性差(ジェンダー)への⽂化⼈類学的向き合い⽅」中⾕⽂美(⽂化⼈類学)
第3回 9⽉28⽇
「考古資料の中のジェンダー/セックス」光本順
「ジェンダーと政治」⼤澤貴美⼦(政治学)
「性」をめぐる解釈枠組みの形成:Xジェンダー/NBの事例を中⼼に」武内今⽇⼦(ジェンダー論)
第4回 11⽉28⽇
「『農業⼥⼦』で性差を考える」藤井和佐(社会学)
「⼥性医師と働き⽅」松⽥由依(内科)
「性差医療の現状と今後の展望(医療を受ける側、提供する側の視点で)」⽚岡仁美(性差医療)
第5回 2⽉13⽇
「動物における性差‒霊⻑類を中⼼に」清⽔慶⼦(岡⼭理科⼤学・⽣物医科検査研究センター客員教授)
「GID当事者にとっての性差とは」中塚幹也(岡⼭⼤学・学術研究院保健学域教授、GID学会理事⻑)

研究成果

男/⼥、あるいはジェンダー/セックスの⼆分法に基づいて記述・分析されてきた性差・性別のあり⽅を異分野横断的視点から再考することを⽬的とする本共同研究にとっては、本年度の研究会は、各⾃が専⾨とする分野ごとに⾃明視されてきた発想やアプローチを問い直し、真の「共同」研究プロジェクトが成⽴する要件をさぐる試みであったといえる。いわば「地ならし」が終わった段階である。
⼀つの試みとして、上記研究会以外に、⾦沢21世紀美術館で開催されていた⼆つの特別展「フェミニズムズ / FEMINSMS」「ぎこちない会話への対応策―第三波フェミニズムの視点で」を共同研究のメンバーで観覧し、担当学芸員と展⽰に⾄る経緯や作家選定の意図、観覧者からの反応などについてのディスカッションをする機会を得た。
個々のメンバーにとっては学ぶことの多い研究会であったが、特定のトピックに対して異なる分野からのアプローチを組み合わせる可能性を含め、この共同研究をどのような成果に結実するかを検討する必要がある。
メンバーによる今年度の研究成果の主なものは以下の通りである。

著書

⽇本村落研究学会企画、藤井和佐編、『【年報】村落社会研究57 ⽇本農村社会の⾏⽅――〈都市−農村〉を問い直す』農⼭漁村⽂化協会、総268⾴、2021年11⽉

論⽂

⼤澤貴美⼦「2021年衆議院選挙と政治分野の男⼥共同参画 」『⽣活経済政策 』300:18-23、2022年1⽉
清家章「古墳時代ジェンダー研究とDNA分析」『考古学ジャーナル』762:11−14、2021年12⽉
清家章「古墳の被葬者」国⽴歴史⺠俗博物館編『新書版 性差の⽇本史』インターナショナル新書、pp.20-22、2021年10⽉
武内今⽇⼦「『Xジェンダーであること』の⾃⼰呈⽰―親とパートナーへのカミングアウトをめぐる語りから」『ジェンダー研究』(24):95-112、2021年9⽉(査読あり)
武内今⽇⼦「『性的指向』をめぐるカテゴリー化と個別的な性―1990年代における性的少数者のミニコミ誌の分析を中⼼に」『ソシオロジ』66(3):21-39、2022年2⽉(査読あり)
中⾕⽂美「『仕事』に⾒えない仕事からワークとライフを考える」『季刊⺠族学』179:4-13、2022年1⽉
松本直子「縄文・弥生時代の性差と考古学」『考古学ジャーナル』762:19-22、2021年

⼝頭発表

片岡仁美「性差医療の視点から考える更年期女性の胸痛」第17回消化器病における性差医学・医療研究会スポンサードセミナー、2021年7月12日
片岡仁美「性差医療の現状と今後の展望」公開シンポジウム「ジェンダード・イノベーション(Gendered Innovations)~一人ひとりが主役の研究開発が新しい未来を拓く~」”日本学術会議第三部、日本学術会議中国・四国地区会議、日本学術会議科学者委員会男女共同参画分科会講演、2021年8月18日
Kyoko Takeuchi, “Multiple Interpretations of “Gender Transition” Enabled by the Concept of “Gender Identity Disorder”: An Analysis of the Transgender Magazines in Japan,” UT-NTU Sociology Forum 2021年11⽉6⽇
中⾕⽂美「ジェンダーへの⽂化⼈類学的向き合い⽅」⽂化的・⽣物学的性差に関する研究会、2021年11⽉26⽇、於:京都⼤学⼈⽂科学研究所