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共同研究プロジェクト 木村理

採択課題名

古代備前産須恵器の産地同定法確立と生産流通復元にかんする文理横断型研究

メンバー一覧(氏名、所属)

木村 理岡山大学・文明動態学研究所
鈴木 茂之岡山大学・自然科学研究科
野坂 俊夫岡山大学・自然科学学域
馬場 昌一公益財団法人寒風陶芸の里 寒風陶芸会館
森川 実独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所・都城発掘調査部
道上 祥武独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所・都城発掘調査部

研究の概要

本研究の目的は、複数の理化学分析から古代備前産須恵器の産地同定法を確立し、その生産開始期における生産・流通状況を復元することである。

岡山県南東部に広がる邑久窯跡群で生産された備前産須恵器は、当時の都があった奈良県の飛鳥藤原地域や平城宮にも搬出されていたことが文献史学の成果から確実視され、古代の土器研究、ひいては国家成立期の手工業生産研究の中でも注目を集めてきた。

一方で、物質資料からその広域的な流通動向を跡づける作業、とりわけ邑久窯跡群で本格的な生産が開始される飛鳥時代を対象とした実証的分析はほぼ実施されていない。その要因は、備前産須恵器の産地同定法が未確立であったことに求められる。形態的な斉一性の高い当該期の土器に対しては、型式学的な分析のみならず理化学的な胎土分析が不可欠といえる。

そこで、本研究では型式学的な分析に加えて複数の理化学分析を駆使して、客観的に備前産須恵器の特性を把握し、生産の本格的な開始期における生産・流通状況を復元する。

研究実施状況

 本年度は、2度にわたる全体会議(オンライン)を実施し、研究方針の打ち合わせおよび作業成果のまとめをおこなった。また、11月には寒風古窯跡群の現地を踏査し、当窯の地形環境や須恵器生産に用いられた可能性のある3地点の露頭粘土の調査などを実施した。

9月には瀬戸内市教育委員会にて寒風古窯跡群出土須恵器の実見調査をおこなうとともに、理化学分析用の試料13点の提供を得た。10月には大阪市教育委員会、大阪市文化財協会にて難波宮出土須恵器、12月には奈良文化財研究所にて飛鳥藤原地域出土須恵器の実見調査およびXRF分析を実施した。

本研究における外部機関への調査はおおむね当初予定通り完了したといえる。

研究成果の概要

 本研究は、①寒風古窯跡群現地の露頭粘土分析に基づく粘土採取地の特定、②理化学的な胎土分析に基づく寒風窯産須恵器の特性把握、③考古学的な分析に基づく寒風窯産須恵器の特徴把握、といった3つの柱からなる。そのうち、寒風古窯跡群現地の露頭粘土の分析においては、現地踏査を通じて採取した粘土を理化学的に分析し、当地の須恵器生産で実際に用いられていた粘土の採取地を窯近隣の数カ所に絞り込むことができた。

理化学的な胎土分析では、破壊分析と非破壊分析をおこなった。前者では、寒風古窯跡群で出土した須恵器甕3点を対象に、窯ごとの比較を試みた。その結果、同様の鉱物組成をもちながらも、窯ごとにわずかに粒径の異なる鉱物を含む場合があることが判明した。また、長石の溶融程度の分析を通じて、各個体の焼成温度の復元も実施している。当分析は本研究に際した新たな試みであり、向後器種ごと、あるいは窯ごとの様相差の抽出が見込まれる。

 他方、非破壊分析では難波宮や飛鳥藤原地域といった消費地かつ宮都の資料計85点を対象に、XRF分析を実施した。考古学的所見から寒風窯産と判定した資料と、他地域産と判定した資料の双方を分析した結果、それぞれは不明瞭ながらも異なる科学的特性をもつことが判明した。

 最後に考古学的な分析では、難波宮、飛鳥藤原地域(石神遺跡、川原寺、藤原宮ほか)で出土した遺物の実見調査をおこない、各資料所蔵機関へ持参した寒風古窯跡群出土須恵器との型式学的な共通性などを照合した。その結果、供膳具の一部にみられる固有の型式学的特徴を手がかりとしながら、寒風窯産須恵器が宮都へ供給されていること、とりわけその供給は飛鳥時代後半期において顕著であることが明らかとなった。 以上、文理横断型の研究を遂行したことにより、寒風古窯跡群で生産された須恵器の理化学的、考古学的特性を把握し、その生産・流通状況の復元を実施できたといえる。