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共同研究プロジェクト 野﨑貴博

採択課題名

考古学的・自然科学的分析による弥生時代後期の臨海性集落における土地利用と景観の復元

メンバー一覧(氏名、所属)

野﨑 貴博岡山大学・文明動態学研究所
宇田津 徹朗宮崎大学・農学部
鈴木 茂之岡山大学・自然科学研究科
山口 雄治岡山大学・文明動態学研究所

研究の概要

岡山市北区所在の鹿田遺跡は、近世の瀬戸内海干拓以前には海岸線から3㎞前後の位置にあり、これまでの発掘調査では、弥生時代後期の小規模な集落・水田状遺構が確認されている。本研究の目的は、この水田状遺構が、真に水田か否かを考古学的および自然科学的分析により検証することである。検証が必要と考えたのは、以下の理由による。

①鹿田遺跡は、低平な岡山平野最南部に位置する集落で、瀬戸内海の潮位の影響を大きく受けると予想されること。

②この水田状遺構は、1999年の確認以降、水田と考えてきた。2021年の発掘調査でも一連の遺構を検出し、それまで確認されていたものと合わせると、その面積は1.5haを超えるものとなった。そのため、小規模集落(同時期に5軒程度の竪穴住居で構成される)が経営する水田として適当な規模か、という疑問が生じたこと。

③低湿地の水田開発に不可欠な大規模灌漑水路が未発見であること。

④これまで自然科学的分析による検証がなされていないこと。土層試料のプラント・オパール、珪藻、花粉、電気伝導度、土層の堆積相を検討することによって、当時の古地理的景観や植生景観が明らかとなる。

研究実施状況

【研究打ち合わせ】 コロナ禍であること、メンバーが遠隔地であることを考慮し、メールで意見交換等を行った。岡山在住メンバーは対面での打ち合わせ・メールを併用した。

【サンプル調査】 採取したサンプルが質・量ともに十分なものであることを岡山在住メンバーで確認した。また、サンプル切り分け前に、極力大きなサンプル塊が求められる堆積相の観察を実施した。

【分析】 水田の可否を複数の分析手法で検証するため、プラント・オパール分析、堆積相の観察、電気伝導率の測定、花粉分析、珪藻分析を行った。また、堆積層の実年代を確定するため、放射性炭素年代測定を実施した。考古学的分析として鹿田遺跡と旭川西岸平野の他遺跡の農耕具保持状況を比較した。

 これらの分析のうち、プラント・オパール分析、堆積相の観察、電気伝導率の測定、考古学的分析については共同研究者グループが行い、花粉分析、珪藻分析、放射性炭素年代測定については分析業者に委託した。

研究成果の概要

分析の中核となるのは、水田耕作土とした<7層>、水田の基盤(床土)となる<8層>の試料である。両層の分析から鹿田遺跡での水稲農耕の可否を考察した。

【花粉分析】 <7層>では草本花粉の割合が木本花粉を上回り、草本植物の生育領域拡大が想定される。また、イネ科植物の多産、栽培種の可能性のある大型のイネ科花粉が確認された。

【プラント・オパール分析】 <7層>で1gあたり4000~5000個超、<8層>で3000個超のプラント・オパールが検出された。

【電気伝導率】 土中の塩分濃度を測定した。<7層>、<8層>は約50マイクロシーベルトで陸成の土層とされた。水道水の電気伝導率は約100マイクロシーベルトであり、両層に含まれる塩分濃度は極めて小さい。

【珪藻分析】 包含される珪藻化石から、<9層>(弥生時代中期以前の堆積層)は潟湖周辺の塩性湿地、<8層>、<7層>形成時はすでに離水していたことが判明した。

 珪藻分析、電気伝導率の計測から、<7層>、<8層>は陸成層で、塩分濃度が極めて小さく、両層での水稲農耕において塩害の影響は少ないことが分かった。プラント・オパール分析、花粉分析では、いずれも<7層>からイネのプラント・オパール、イネ科植物花粉が一定量検出され、イネそのものが存在した可能性が大きいことが明らかとなった。

以上を総合すると、鹿田遺跡に水田が存在することの妥当性は自然科学的分析から追認された。

【考古学的分析】 同じ旭川西岸平野にあり、海からは離れた津島遺跡の当該期の農耕具保持状況を比較した。集落規模が異なるため、数の比較はさほど有効ではないが、一つの目安として(農耕具保有数)/(弥生時代後期の竪穴住居数)を示す。鹿田遺跡では7点/15基、津島遺跡では76点/36基で、鹿田遺跡の農耕具保持割合は少ない傾向にある。自然科学的分析結果を勘案すると、こうした事象は水稲農耕の可否の判定では有意な関係にないと考えられる。

以上、弥生時代後期の鹿田遺跡における水稲農耕の存在の妥当性を自然科学的分析から追証することができ、本共同研究の目的は達成された。