新型コロナウイルスのパンデミックはいまだ終息の兆しを見せず、私たちの生命、社会に大きな影響を与えています。この世界的な危機を乗り越えるために、感染予防やワクチン開発等についての理化学的な研究が進められていますが、社会関係や価値観、文化的慣習や経済など、人文社会科学的な側面も感染症の動向に深くかかわっていることが実感されつつあります。
人類の誕生からおよそ1万年前までの長い間、小規模な集団で分散して生活していた人類にとって、パンデミックは起こりえませんでした。感染症が人類にとって大きな脅威となるのは、農耕や牧畜が始まり、人口が増え、都市や国が形成され、数万人から数十万人という規模での集住生活が始まってからのことです。農耕や牧畜による自然の人工化、技術の発達、新しい世界観や価値観の創造という人類特有の現象(=文明)は、人類に繁栄をもたらしましたが、同時に戦争、環境破壊、差別、貧困などの多くの問題が生まれました。
現代社会が抱えるさまざまな課題は、長い歴史の中でヒト、社会、技術、環境が相互に密接に関連しあって発生してきたものです。今の状況だけ、個別の要因だけを見ていては根本的な解決につながる長期的な展望を見出すことは難しいでしょう。文明動態学研究所は、人文社会科学における関連分野の連携および自然科学分野との連携による学際的研究体制を構築し、分野限定的研究では見えてこない人類史の実態を明らかにすることを目指します。