研究概要

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基盤研究S「王陵級巨大古墳」
〒700-8530 岡山市北区津島中3-1-1
岡山大学大学院文学研究科

担当:清家 章
E-mail:aseike◎okayama-u.ac.jp
※◎を@に置き換えて下さい。

研究概要

1.研究概要

本研究は、最新科学と考古学の密接かつ有機的なコラボレーションによって、王陵級巨大古墳の系統的発掘前調査研究の方法を確立し、複数の古墳の内部構造を系統的に研究することにより、古代王権構造とその発展を明らかにしようとするものである。とくにミュオンラジオグラフィと墳丘・埴輪などの外表施設の三次元精密計測を組合せた、宇宙線考古学という新しい分野を開拓する。合わせて、考古学的分析と胎土分析を有機的に合わせた埴輪の研究を行うことにより、新しい次元の埴輪研究を提示する。これらの新手法を総合して吉備地方の3大王陵級巨大古墳の構造を明らかにした上で、新たな王陵像を展開する。

2.研究目的と学術的背景

学術的背景 2019年7月、百舌鳥・古市古墳群が世界遺産に登録されることが正式に決定された。その構成要素である王陵級巨大古墳は、天皇陵あるいは陵墓参考地になっているため基本的に発掘調査はできず、立ち入りさえ制限されている。天皇陵等以外の巨大古墳も多くが国史跡となっており、遺跡保護のためとくに埋葬施設の調査は控えられる。

そのため王陵級巨大古墳の埋葬施設研究は、過去の盗掘・濫掘に関する近世・近代の絵図・古文書研究に多くを頼っているのが現状である。王陵級巨大古墳の多くは世界遺産に登録されたにも関わらず、その内容が不明なままで世界に発信できずにいるのである。

研究目的 こうした状況を改善するために、文化財保護と調査に関わる全ての関係者の叡智を結集して王陵級巨大古墳の今後の調査研究と保護の戦略を立てることができるように、どこでも誰でも使うことができる系統的発掘前調査の方法を開発し、かつ宇宙線考古学という新分野の開拓を目指す。これが本研究の目的である。

3.3つの研究視点

 王陵級巨大古墳の内容解明を実現するために我々は3つの研究視点と3つの研究班を構築した。
3つの研究視点とは、
①複合ミュオンラジオグラフィを利用した新たな古墳調査方法の開発
②文理融合的分析による墳丘・埴輪などの外表施設の研究推進
③それらに基づいた王陵級巨大古墳と古墳群の構造と意義の解明
である。

①複合ミュオンラジオグラフィを利用した新たな古墳調査方法の開発

近年、ミュオンラジオグラフィの研究が進み、火山調査・溶鉱炉の経年変化・福島第一原子力発電所そしてエジプトにおけるピラミッドの調査において大きな成果を上げている。浅間山では火口底付近内部の視覚化、薩摩硫黄島ではマグマカラムの脱ガスを視覚化、大分の溶鉱炉では分厚い煉瓦壁への溶融鉄による食侵の透視等に成功し、福島第一原子力発電所では溶け落ちた燃料デブリの場所を特定した。さらに考古学への応用では、クフ王のピラミッドでは新たな空間の存在を明らかにした。地球の大気圏で生まれるミュオン(宇宙線ミュオンと呼ぶ)は、高い物質透過性、元素感受性、磁気感受性を持つ。今日までに確立されているミュオンラジオグラフィは、このうち高い透過性のみを利用したものである。他の方法と区別するために透過法と呼ぶ(図1)。

透過法は前述のように、岩石とマグマ、石材と空隙、煉瓦と鉄など、大きな密度差のある内部構造の診断に顕著な成果をあげてきた。しかし、我が国の古墳は、埋葬施設と副葬品が土に埋まっていることが多く、その多くは周囲の土との密度差が小さい。このため、内部構造を、透過量の違いだけから読み取ることは容易ではない。元素感受性の高い散乱法を併用することによりこの課題を解決する。このため、本研究では、透過法に散乱法を組み込んだ複合診断法(複合ミュオンラジオグラフィ)の開発を行う。

図1 ミュオンラジオグラフィの概念

②文理融合的分析による墳丘・埴輪などの外表施設の研究推進

墳丘の三次元計測はすでに標準化してきたとは言え、巨大古墳を取り巻く中小型古墳では実施されていない古墳は多い。巨大古墳を取り巻く中小古墳の三次元測量を進め、巨大古墳とそれを取り巻く中小古墳の関係を考察する。埴輪研究は現在、古墳と古墳の関係を理解する重要な手段として機能している。本研究では、考古学的手法と科学的胎土分析の有機的連携の下に埴輪研究を実施する。これまでは両者は別個に研究が進められてきたが、埴輪の型式学的研究に基づいた胎土分析を行うことにより精度の高い埴輪研究を実現する。胎土の肉眼的観察による分類と埴輪の型式は関連があることが複数の古墳で指摘されている。これを王陵級巨大古墳で科学的に実施する。

③①と②に基づいた王陵級巨大古墳と古墳群の構造と意義の解明

吉備には造山古墳・作山古墳・両宮山古墳の3大王陵級巨大古墳が存在する。これらは天皇陵・陵墓参考地に指定されていないため、立ち入り調査が可能である。5世紀前葉から後葉にわたる築造であり、王権構造の発展史を解読するに相応しい。前方後円墳に特徴的な三段構造が明確に残されており、複合ミュオンラジオグラフィの検出器の設置に最適である。さらに周辺は農地等の平坦地が多く、散乱法に必要な後方検出器の設置スペースが十分ある。百舌鳥・古市古墳群が立入を制限されることにくらべミュオンラジオグラフィの開発の条件は整っている。史跡の範囲確認調査等によって、両宮山古墳以外では埴輪の出土を見ている。

すなわちミュオンラジオグラフィ・三次元計測による墳丘調査と分析・文理融合的埴輪分析を吉備の3大古墳で実施し、王陵級巨大古墳の内容解明に努める。

4.研究組織と役割

本研究を推進するため3つの研究班を組織する。真の文理融合型総合研究を推進するため、各班は関係する文理の研究者から構成される。ミュオン・埋葬施設班は、研究代表者である清家と、研究分担者の福永伸哉(大阪大学)・南健太郎(岡山大学)・永嶺謙忠(高エネルギー加速器研究機構)・三宅康博(高エネルギー加速器研究機構)・吉村浩司(岡山大学)・居島薫(山梨大学)・白木一郎(山梨大学)・鈴木茂之(岡山大学)ならびに鳥養映子(山梨大学)と研究協力者のライアン=ジョセフ(岡山大学)から構成される。このうち居島・白木・鳥養がミュオンラジオグラフィ検出器を開発し、それに永嶺・三宅・吉村が加わりイメージングの解析を行う。清家・福永・南・ライアンは考古学的所見から、鈴木が地質学から検出器の設置位置と解析への助言を行う。

埴輪班は清家のほか、研究分担者の野崎貴博(岡山大学)・野坂俊夫(岡山大学)・木村理(奈良文化財研究所)から構成される。野崎・木村と清家が型式学的埴輪の分類を行い、野坂が胎土分析を行う。 墳丘班は清家のほか、光本順(岡山大学)・山口雄治(岡山大学)が担当する。光本・山口が三次元計測を行い、清家も含めて墳丘規格の研究を行う。これら以外に研究協力者として大橋雅也(古代吉備文化財センター)・安川満(岡山市教育委員会)・前角和夫(総社市教育委員会)・有賀祐史(赤磐市教育委員会)が参加する。本研究には吉備三大古墳が所在する自治体の協力が不可欠であり、調査協力を得ると同時に、各研究協力者はそれぞれの自治体の古墳の研究に参加する。

見えない謎を透視する

研究体制

地域連携・協力:岡山市(安川)、総社市(前角)、赤磐市(有賀)の文化財担当部局

地域連携・協力:岡山県教育庁(大橋)

年次計画