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2024年度 文明動態学研究所 共同研究プロジェクト 山口雄治

採択課題名

西アジア高原地帯における非定住民遺跡の基礎的研究

メンバー一覧(氏名、所属)

山口 雄治岡山大学・文明動態学研究所
紺谷 亮一ノートルダム清心女子大学・文学部
フィクリ・クラックオウルアンカラ大学・言語歴史地理学部
エリフ・ゲンチチュクルオバ大学・教養学部
チェティン・シェンクルスレイマン・デミレル大学・地理学部

研究の概要

西アジアにおける遊牧社会の成立は、農耕・牧畜が本格化した先土器新石器時代B後期における移牧がその起源とされる。その後、後期新石器時代に遊牧化の兆候が現れ、都市が形成される銅石器~前期青銅器時代には遊牧部族社会が成立した。こうした説明は、「肥沃な三日月地帯」とその周辺乾燥域の考古資料から導かれたものである。その一方で、アナトリア高原などの高原地帯が広がる西アジア北西部では、長距離の移牧または遊牧の痕跡がビザンツ時代まで明確に捉えられず、「肥沃な三日月地帯」周辺部とは異なるプロセスや状況なのか、それとも定住集落に偏った調査による資料的制約によるものなのか、議論がある。申請者らは、銅石器~前期青銅器時代の巨大定住集落を発掘しているが、これまでに遺跡の踏査も行う中で同時期のキャンプサイトと考えられる遺跡も発見している。そこで本研究では、中央アナトリアすなわち西アジア高原地帯を対象に、移牧先集落または遊牧民のキャンプサイトなどの資料状況を明らかにするために、考古・歴史・地形・GISの協業から基礎的な検討を行うことを目的とする。

研究実施状況

本年度の研究実施状況は以下の通りである。

①8月にトルコ共和国で開催された第6回Kültepe International Meetingにて発表を行い、また共同研究者との会議を行った。

②トルコ共和国キュルテペ遺跡の発掘調査・資料整理を行い、年代測定用サンプル採取等を実施した。

③キュルテペ遺跡周辺地形について、UAV-SfMにより高解像度三次元データを作成した。

④以前行った遺跡踏査資料中の、キャンプサイトを考えられる資料の整理を行った。

⑤国内における西アジア関連資料の収集と見学を行った。

研究成果

本地域では、定住民と移牧、遊牧民との関係についてこれまでほとんど議論されてこなかった。そうした中申請者らは、「考古学的可視性」が低いキャンプサイトをすでにいくつも発見していた。考古資料による定住遺跡との比較や遺跡周辺環境の地理学的特徴および後世の文献史料等による基礎的な整理から、西アジア高原地帯におけるキャンプサイトの特徴を明らかにできると考え、ミーティングを設定して議論した。また、各人の研究成果について第6回Kültepe International Meetingで発表し合い、他の研究者も交えて議論した。

定住集団の遺跡であるキュルテペ遺跡の発掘調査を行った。紀元前4千年紀後葉における大規模建築物の範囲確認のために調査区を設定し、建物コーナー部を明らかにすることができた。この建物は長さ25m以上もある大規模建築物であり、祭祀または公共建築物に類するものと考えられる。遺物は、黒色磨研土器、赤黒土器、フルーツスタンドといった紀元前4千年紀後葉~前3千年期前葉の土器群が出土した。また、UAV-SfMによって遺跡周辺の高解像度三次元データも取得した。

同時代のキャンプサイトの特徴および出土遺物の特徴についても整理した。遺跡の特徴として、堆積層が薄く、単一の時期のみの利用であること、テルを形成しないものもあること、などが挙げられる。遺物は表面採集資料であることから制約があるものの、現在キュルテペ遺跡出土の土器との比較検討を行っているところである。

これまで行ってきた気候変動と文化動態との関連性に、定住民と遊牧民に関する研究を統合することで、遺跡間・地域間の関係性や交易の問題をさらに具体的に論じることができる。今後も継続していきたい。

成果

Yamaguchi, Y 2025 Pottery from late 4th to mid 3rd Millennium BCE at Kültepe. The 6th Kültepe International Meeting (KIM6), Kayseri, Turkey.

Kontani, R., Y. Yamaguchi and F. Kulakoğlu 2025 Investigating the 4th Millennium BC at Kültepe: Excavation at the Central Trench (2023). The 6th Kültepe International Meeting (KIM6), Kayseri, Turkey.

紺谷亮一・山口雄治・フィクリ・クラックオウル2025「中央アナトリアにおける銅石器時代解明へ向けて─キュルテペ遺跡中央トレンチ発掘調査 2024年─」『第32回西アジア発掘調査報告会報告集』日本西アジア考古学会 22-25頁