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2021年度共同研究プロジェクト 南 健太郎

採択課題名

ミュオン完全非破壊成分分析による日本最古の墨書文字の実態解明

メンバー一覧(氏名、所属)

南 健太郎岡山大学・埋蔵文化財調査研究センター
三宅 康博高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
下村 浩一郎高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
反保 元伸高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
竹下 聡史高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
鈴木 茂之岡山大学・自然科学学域
森 貴教新潟大学・研究推進機構超域学術院

研究の概要

“日本列島における漢字、墨書の起源を「ミュオン完全非破壊分析」によって探求する”。これが本研究の目指すところです。
これまで日本列島における文字使用を裏付ける確実な資料は、古墳時代(5世紀ごろ)のものでした。しかし、近年それを200年以上さかのぼる弥生時代の土器や石製品に、墨で書かれたような、漢字のような形をした、黒色付着物が確認されました。これが墨書された漢字であれば、東アジアにおける漢帝国を中心とした漢字文化・墨使用の拡がり、弥生時代における文字使用や識字層の存在を裏付ける資料となります。
弥生時代の墨書漢字の存在を証明するためには、黒色付着物の実態を明らかにしなければなりません。私たちは成分分析から黒色付着物に墨の成分が含まれているのかを明らかにしていきます。ただし、考古資料の表面は様々な汚染の影響を受けています。このため信頼性の高いデータを得るためには、黒色付着物の表面ではなく、内部の分析をする必要があります。しかし貴重な資料を破壊しての分析はできません。そこで本研究では物質を透過する性能をもつ特性X線「ミュオン」によって、黒色付着物の内部をターゲットにした完全非破壊成分分析を行います。これによって黒色付着物の正体を明らかにし、弥生時代における墨書、漢字使用について検証します。

J-PARCにおけるミュオン実験

研究実施状況

島根県松江市田和山遺跡出土石製品のミュオン実験・解析、同資料の岩石学的・考古学的調査を実施した。
ミュオン実験では、まず田和山遺跡出土石製品の所蔵機関である島根県松江市歴史まちづくり部と、実験施設のJ-PARC、研究代表者の間で実験方法についてのオンライン検討会を2021年5月に行い、J-PARCでのミュオン実験を6月に実施した。本実験の成果は、9月9日・10日にオンラインで開催された第5回文理融合シンポジウムで報告した。
田和山遺跡出土石製品の岩石学的・考古学的調査は12月に松江市鹿島歴史民俗資料館で実施した。調査は石製品の産地推定や使用方法の解明を目的としたもので、砥石や石板状石製品として報告されている石製品を対象とした。実体顕微鏡による石材鑑定と、デジタルマイクロスコープによる表面観察、表面粗さ測定を実施した。

研究成果

J-PARCでのミュオン実験では田和山遺跡出土石製品に観察される黒色付着物の完全非破壊成分分析を実施した。実験の目的は墨と指摘されている黒色付着物の成分分析から、これがどのような物質であるのかを科学的に明らかにすることであった。実験では表面から1μ単位の深さごとの成分を分析した。その結果、黒色付着物からは炭素が検出され、炭素濃度は深さとともに減少することが観測された。本実験の結果は、事前実験として実施した、テストサンプルにおける墨書の表面から深さ方向での濃度変化の観測結果とあわせて、第5回文理融合シンポジウムで報告した(南健太郎・反保元伸「ミュオン非破壊分析による弥生時代墨書文字の検討」)。今回のミュオン実験結果では黒色付着物が、炭素由来の成分であることは判明したが、必ずしも、墨であることを断言できるものではないため、今後は墨を構成する窒素などの他の元素についても解析を進め、黒色付着物の実態について明らかにしていきたい。
岩石学的・考古学的調査では実態顕微鏡での観察によって、鉱物の組成が明確となり、石材の材質をより正確に鑑定することができた。石材の中には日本海側には希薄なものもふくまれている可能性があり、今後は周辺遺跡や原産地資料との比較検討を進めたい。表面粗さ測定器による観察では、表面状態が各石製品で一様ではないことが判明した。表面状態の相違は石製品の使用方法や相手材の材質、形状に由来するものと考えられるため、今後各石製品の使用実態に関する検討を進める必要がある。これらのデータを総合して、田和山遺跡出土石製品の入手、使用の様相について考えていきたい。