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2021年度共同研究プロジェクト 本村 昌文

採択課題名

「老年人文学」の構築―「老年学」史の探究と〈迷惑〉意識をめぐる調査研究

メンバー一覧

本村昌文 岡山大学・ヘルスシステム統合科学学域
【研究班A】 吉葉恭行 岡山大学・ヘルスシステム統合科学学域
  加藤諭 東北大学・学術資源研究公開センター史料館
  井上美香子 福岡女学院大学・人文学部
  山本尚史 筑紫女学園大学・人間科学部
  島田雄一郎 大島商船高等専門学校
  王萌 鄭州大学
  田妍 南開大学
【研究班B】 日笠晴香 岡山大学・ヘルスシステム統合科学学域
  工藤洋子 東北福祉大学・健康科学部
  木村涼子 仙台赤門短期大学・看護学科
  平尾由美子 仙台赤門短期大学・看護学科
  平田久子 鳥取県教育委員会
  小山敏広 岡山大学・医歯薬学域
  周琛 東南大学外国語学院

研究の概要

本研究は、人文学研究を基幹とした老い・看取り・死をめぐる新たな研究領域(「老年人文学」)を構築・展開するという構想のもとに、以下の2つの研究を行うことを目的とする。
①従来の「老年学」研究のあり方を批判的に検討するために、その形成過程を探究する(「老年学」史の探究、研究班A)。
②人文学を基幹とした老い・看取り・死をめぐる具体的な研究の一環として、高齢者が抱く〈迷惑〉意識に関する調査研究を行う(研究班B)。
2021年度は、上記の2つの研究活動のうち、②の研究を中心に行う。具体的には、現代日本において老い・看取り・死を考える際に多くの人が抱く「家族や子どもに迷惑をかけたくない」という意識(〈迷惑〉意識)について、過去の日本における意識との共通性と差異、また現代的な特質を調査・研究するために必要な質問紙調査の項目検討を行い、予備調査を実施する。

研究実施状況

本年度の研究実施状況について、配分された金額に応じて、上記の研究の目的で記載した②の部分のみを実施した。具体的には、現代日本において老い・看取り・死を考える際に多くの人が抱く「家族や子どもに迷惑をかけたくない」という意識(〈迷惑〉意識)について、過去の日本における意識との共通性と差異、また現代的な特質を調査・研究するために必要な質問紙調査の項目検討を行い、予備調査を実施した。
予備調査の概要については、以下のとおりである。
1)研究対象者の選定方法
40歳以上の男女1000名。業者に委託し、対象者を選定した。
2)調査方法
業者に委託し、インターネットで回答する無記名アンケート調査を行った。
3)調査項目
(1) 属性(年齢、性別、居住形態、同居している伴侶、子どもの有無、子どもの性別)
(2) 独自に作成した<迷惑>意識に関連する33項目
33項目の選定は、先行研究や既存の尺度を参考に、「自律/自立」、「誇り」、「社会に役立つ」、「ロボット/AI」、「きずな」、「恥」、「負債感情」、「死」に分類した項目を作成した。評定尺度は1「あてはまらない」~4「よくあてはまる」の4件法である。
(3) 独自に作成した「迷惑をかけたくない」および「負担をかけたくない」と同義の言葉とその相手について問う項目を作成した。同義の言葉の選択肢は、「負担をかけたくない」、「迷惑をかけたくない」、「わずらわせたくない」、「苦労をかけたくない」、「やっかいをかけたくない」、「世話になりたくない」である。相手の選択肢は、夫、妻、息子、娘、息子の妻、友人・知人、ボランティアの人など14項目から選択する。
(4) 独自に作成した、家族との関係性、自身の経済状況について問う項目を作成した。評定尺度は「非常に良好」~「非常に悪い」の4件法である。
4)分析方法
1)属性の記述統計を算出した。
2)独自に作成した<迷惑>意識に関連する33項目の因子分析を算出し、内的整合性を求めた。抽出された各下位尺度の各項目を1-4点として平均点を算出し、下位尺度間の相関を求めた。
5)倫理的配慮
本研究は岡山大学大学院社会文化科学研究科・法務研究科の倫理審査委員会から承認を得て実施(受付番号:社_2021_13(再))。倫理審査で承認を得た内容について委託業者へ文書で説明した。研究対象者には、アンケートの参加は自由意思であること、解答に進むことで同意と見なすこと、回答しなくても不利益を被ることはないこと、知り得た情報は統計的に分析し、個人が特定されることがないように十分に留意し管理することを文面で説明を行った。

研究成果

質問項目の選定、倫理審査での承認を取るまでに時間を要したため、調査データの本格的な分析は次年度にまわさざるを得なくなった。ただし、現時点での分析結果の概要を以下に記載する。
因子分析の結果、〈迷惑〉意識の背後にある意識や感情は「自律・自立」、「きずな」、「互恵性」、「家族への気遣い」、「ロボット/AIの活用」、「負債感情、「社会に役立つ」、「誇り」に分類できる可能性が明らかになった。
この8つの下位尺度に相当する項目の平均値を算出した。「自律・自立」下位尺度得点(M=3.40、SD=.45)、「きずな」下位尺度得点(M=2.73、SD=.75)、「互恵性」下位尺度得点(M=1.86、SD=.47)、「家族への気遣い」下位尺度得点(M=2.78、SD=.73)、「ロボット/AIの活用」下位尺度得点(M=2.78、SD=.65)、「負債感情」下位尺度得点(M=2.58、SD=.36)、「社会に役立つ」下位尺度得点(M=2.85、SD=.61)、「誇り」下位尺度得点(M=2.73、SD=.60)であった。
「自律・自立」は「家族への気遣い」、「ロボット/AIの活用」、「負債感情」、「社会に役立つ」と1%水準で有意な正の相関関係であり(r=.144、r=.195、r=.195、r=.292)、「互恵性」とは1%水準で有意な負の相関関係であった(r=-.279)。また「きずな」、「誇り」との相関関係はみられなかった。
次に、「きずな」は「互恵性」、「社会に役立つ」、「誇り」と1%水準で有意な正の相関関係であり(r=.169、r=.291、r=.217)、「家族への気遣い」とは1%水準で有意な弱い負の相関関係であった(r=-.083)。また「自律・自立」、「ロボット/AIの活用」「負債感情」との相関関係はみられなかった。
このことから、<迷惑>意識の背後にある「自律・自立」と「きずな」の共通点に「社会に役立つ」との関係性が示唆された。一方、「互恵性」、「家族への気遣い」、「ロボット/AIの活用」、「負債感情」、「誇り」では関係性が一致していないことが示唆された。以上の予備調査について、さらに本格的な考察を加え、質問項目の修正・追加などを検討し、〈迷惑〉の構造の解明に資する質問紙調査を実施するための端緒を得た。