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2024年度共同研究プロジェクト ライアン・ジョセフ

採択課題名

鉄器文化からみた弥生時代後半期における壱岐・対馬の諸集団によるアイデンティティ形成

メンバー一覧(氏名、所属)

ライアン・ジョセフ岡山大学・文明動態学研究所
柴田 亮岡山大学・文明動態学研究所
立谷 聡明唐津市教育委員会 生涯学習文化財課 文化財調査係
松見 裕二壱岐市教育委員会 社会教育課
森 悠統対馬市教育委員会 文化財課

研究の概要

本研究プロジェクトは、弥生時代の壱岐・対馬の鉄器文化を検討し、北方の韓半島南東岸および南方の九州島北岸のそれとの比較により、当該地域の地域的特性の実態解明に迫ることを目的とする。

現代の地図では、韓半島と日本列島は海峡によって分断されているが、弥生時代においては、壱岐・対馬が所在する海域によってむしろ結ばれていたといえる。壱岐・対馬には、当時の国際交易拠点が置かれ、活発な人・モノ・情報の双方向的な交流が行われていた。壱岐・対馬は日本列島の「倭」に属していたが、韓半島との密接な交流を基盤として、各島固有の文化を形成した。本研究プロジェクトは、当時の日韓の地域間関係や交流の濃淡を如実に物語る弥生鉄器の実証的な分析に基づき、倭の「国境」ともいえる西限でありながら、古代日韓をつなぐ交流の結節点でもあるという両義性を備えた壱岐・対馬の地域的特性を明らかにし、当該地域の諸集団のアイデンティティやその形成過程を明らかにする。

研究実施状況

今年度は、共同研究メンバーで壱岐と対馬に一回ずつ赴き、出土遺物の実地調査を実施した。主な作業内容は現地における鉄器の熟覧と再実測である。また、課題と成果に関するディスカッションの場を数回設け、議論を深めた。

研究成果

本研究プロジェクトは、壱岐・対馬の諸集団が日韓との双方向的な交流を積極的に行う中で、どのようなアイデンティティ形成を目指したかを、鉄器文化の詳細な検討を通じて明らかにすることを目的としたものである。共同研究メンバーで壱岐と対馬の遺物所蔵施設に赴き、鉄器の熟覧と再実測作業を行った。当該地域の主要な副葬鉄器が報告されたのが40年以上も前のことであるため、今日的な研究水準に合わせて熟覧し資料化することで、当該地域の鉄器文化に関して多くの新知見を得た。具体的には、壱岐・対馬の出土鉄器の形態的特徴を明らかにすることにより、製作技術や系統、ひいてはその製作地が判明する見通しを得た。この成果は鉄器研究にとどまらず、東アジア世界における壱岐・対馬の重層的な交流の実態解明にもつながる。両島が交渉していた楽浪郡、韓半島南部、そして北部九州の諸勢力との関係性の濃淡がより明らかになった。また、壱岐と対馬はそれぞれの置かれた環境も異なり、両島の性格の違いにも迫ることができた。

また、属人性が高く保有者のアイデンティティを視覚的に明示する、鉄剣を中心とした鉄器と着装される付属具を系統的に整理し、壱岐・対馬の諸集団が北方の韓半島諸社会および南方の北部九州社会に対して、どのようなアイデンティティを形成し視覚的に明示しようとしていたかに関する考察も深めることができた。詳細な研究成果や考察については、学術論文にて公表する予定である。