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2023年度共同研究プロジェクト 山口雄治

採択課題名

紀元前4~3千年紀中央アナトリアにおける気候変動とレジリエンス

メンバー一覧(氏名、所属)

山口 雄治岡山大学・文明動態学研究所
紺谷 亮一ノートルダム清心女子大学・文学部
フィクリ・クラックオウルアンカラ大学・言語歴史地理学部
チェティン・シェンクルスレイマン・デミレル大学地理学部

研究の概要

気候変動と文化・文明の盛衰との関連には古くから議論がある。本研究が対象とする西アジア地域では、例えば8.2kaイベントと農耕の開始・拡散、4.2kaイベントと都市社会の崩壊などがある。その一方で、古環境データの不足や曖昧さもあって多くの反論も提出されてきた。しかし、近年では時間目盛りの精密化、分析技術の発展、分析対象の多様化を背景として、この問題に対する再検証の動きが世界規模で活発化している。こうした動向の中、気候変動は文化・文明に負の影響のみを与えた訳ではなく、その後の発展を生み出す正の影響も持っていたとする見解も出されており、気候変動の歴史的役割や社会のレジリエンスのあり方に注目が集まっている。 本研究では、中央アナトリアを対象として、考古学と古生態学の協業から、前4~3千年紀における気候変動の実態と考古資料との整合性および社会のレジリエンスについて考察することを目的とする。具体的には、①キュルテペ遺跡の発掘調査、②年代測定、③キュルテペ遺跡周辺湖沼から採取されたボーリングコアの分析を行う。

研究実施状況

本年度の研究実施状況は以下の通りである。

①8月に2週間ほどキュルテペ遺跡に滞在し、発掘調査を行った。

②遺跡周辺湖沼から採取されたボーリングコアの観察およびサンプル採取を行った。

③キュルテペ遺跡出土の年代測定用サンプルを採取し、年代測定を実施した。

④日本・トルコ両国の研究者で会議を開催し、情報の共有と今後の課題について議論した。

研究成果

トルコ共和国カイセリ県に位置するキュルテペ遺跡の発掘調査を実施した。これまでに確認されている紀元前4千年期後葉~末の大型建築址の規模とその場における活動内容を調べるために、遺跡中央部に設けていた調査区の拡張と各部屋の調査を行った。また、本建築址の下層の状況を確認するために調査区南西部において深掘坑を設定し地表下約6mまで調査した。

大型建築址の規模を確認するために拡張した調査区では後世の撹乱が多かったが、一部に当該建築址の続きを検出できたことから、広く西側にのびていることが明らかとなった。大型建築址の一部の部屋では、床面を作りかえるタイミングで土器の中に土器を入れた入れ子状態の土器を埋納している状況を確認した。Room1とした部屋では、こうした行為が少なくとも連続して3回行われており、建物または床面の更新時に儀礼が行われていたことが推定された。本調査地点からは、フルーツスンタンドが出土した。これは本地域における後期銅石器時代の標識資料となっており、年代測定値だけではなく、考古学的な状況からも矛盾なく本遺構の年代を補足することができた。

大型建築址の下層の調査では、少なくとも2枚の遺構面を確認した。下層の遺構からサンプルを採取し年代測定を行ったところ、紀元前4千年期初頭~前葉の年代値を得た。昨年度に行った深掘り地点では紀元前4千年期中葉の年代値が得られていることから、大型建築址の下層には紀元前4千年紀初頭から中葉にかけての活動痕跡が厚く残っていることが明らかとなった。

ボーリングコアの分析では年代決定のための炭化物サンプルを採取し、現在分析中である。

5.9Kaイベントは、およそ紀元前4千年期初頭にあたる。本調査地点では、紀元前4千年期初頭~中葉、そして後葉~末の大型建築址と連続的な堆積が認められ、断絶はなさそうである。紀元前4千年期初頭~中葉の活動内容と古環境を明らかにすることが課題となる。