2024年度 文明動態学研究所 共同研究プロジェクト 伊藤駿
採択課題名
国吉康雄の文化的アイデンティティーを背景とした社会課題への態度を
国吉康雄作品の画風の変遷から明らかにする
メンバー一覧(氏名、所属)
伊藤 駿 | 岡山大学・国吉康雄研究講座 |
才士 真司 | 岡山大学・国吉康雄研究講座 |
赤木 里香子 | 岡山大学・教育学域 |
山村 みどり | ニューヨーク市立大学キングスバロー校 |
西郷 南海子 | 独立行政法人日本学術振興会 |
奥村 一郎 | 和歌山県立近代美術館 |
山路 弘 | ヤマト運輸株式会社 美術品ロジスティクスチーム |
天野 静子 | (一社)日米芸術振興協会 |
研究の概要
本研究では昨年度に引き続き、岡山出身で20世紀前半のアメリカで活躍した洋画家であり、社会活動家、美術教育者であった国吉康雄(1889-1953)の作品制作とその画風の変遷における、明治期の岡山で受けたわが国の近代化を前提とした国家目標のもとで成立した美術教育や、その少年期の芸術体験の影響を、アメリカで進む国吉研究と近代美術への評価の更新との比較により明らかにする。この課題の調査と、アメリカでアジア系移民のマイノリティーとして。そしてアクティビストとして国吉が対峙した社会課題への選択と対応をも検証することで、国吉が芸術家、教育者に加え、美術界のリーダーとして認知され、また自身の作品に付与した「社会と時代へのメッセージ性」を読み解く。これらの調査を踏まえて、昨年までの国吉康雄研究を検証し、より多層的な展開が可能な理論を検討、実践することで、現代社会課題の歴史的背景と継続性の理解に使用することを目的とする。
研究実施状況
今年度は計画通り、ニューヨークを中心としたアメリカと日本国内での専門家・研究施設への調査を実施した。また、ニューヨーク日本人歴史博物館が主催し、日本クラブを会場に単独講演を実施する機会を得た。
ニューヨーク及びワシントンD.C.での調査
メトロポリタン美術館での国吉作品の調査を昨年に続き実施し、アメリカにおける国吉康雄研究家の第一人者であるトム・ウルフ先生をはじめ、著名な美術史家やアジア系アーティスト作品を扱う画廊、国吉作品を所蔵する美術館への取材を行った。
加えて、アメリカの政情の変化を受けて、社会活動家の側面を持つ国吉作品の新規の展示計画について、国吉康雄作品を所蔵するワシントンナショナルギャラリー担当者との情報交換を行う機会を得た。
また、国吉康雄の夏の活動拠点であったウッドストックに赴き、調査実施のための下取材を行なった。
日本国内での調査活動
国吉研究の国内第一人者である小澤善雄・律子先生が収集した「小澤資料」の寄贈を受け、共同研究者である西郷南海子博士(日本学術振興会)や、本年6月に「藤田嗣治×国吉康雄」展を開催する兵庫県立美術館の学芸員らと共に調査を続けている。また、同館館長の林洋子氏に、藤田嗣治と国吉康雄研究の協調の必要性を聞いた。発展的な取り組みとしては、1990年代に国吉康雄作品の調査を行った秋元雄史東京藝術大学名誉教授が、同時期にその基盤の構築に携わった「ベネッセアートサイト直島」の活動初期における、世界最大規模の国吉作品と関係資料のコレクションである「福武コレクション」の関係性を確認した。
研究成果
昨年度の調査でホイットニー美術館やメトロポリタン美術館など国吉作品を所蔵する施設や、スミソニアン・アメリカン・アート・ミュージアムの国吉康雄展(2015年)の組成に努めたトム・ウルフ氏や、アジア系作家を扱う画廊で取材を実施したが、今年度の継続調査で、本調査の認知がニューヨークの研究者や美術館などで進んでいることが実感できた。
アメリカでの調査状況
グッゲンハイムミュージアムのアジア美術担当者で著名な美術史家であるアレクサンドラ・モンロー氏への取材では、現在時における国吉研究の意義と視点に関する指摘を受ける。ジャパンソサエティギャラリーのシニアディレクター、ミシェル・バンブリング氏からはニューヨークでの国吉展開催を模索する調査への協力を依頼される。ワシントンD.C.にあるワシントンナショナルギャラリーのアソシエイトキュレーターであるアダム・グリーンハルフ氏と国吉の第二次世界大戦中の制作活動に関する意見交換を行い、継続している。これに関連して、国立公文書館での調査を現地リサーチャーと共に継続中である。
加えて、国吉の生徒で著名画家のポール・ジェンキンス(1923-2012)作品を管理する、ポール&スザンヌ・ジェンキンス財団のマネージング・ディレクター、マーサ・ブラックウェルダー氏から、国吉の画風を意識したジェンキンス作品に関する情報があり同財団で確認した。
発表
・講演会
ニューヨーク日本人歴史博物館主催し、在ニューヨーク日本国総領事館、UCLAアジア系アメリカ人研究センターの協賛する、「国吉康雄の人生とニューヨークでの作家活動」にと題する講演会を日本クラブで実施した。この場で、全米日系人博物館理事と2025年以降、西海岸エリアでの調査を進めることで合意した。
・論文
国吉康雄の画業と作品評価について論じるわが国の研究者の記述を、作家の没後の1954年から2004年までの「国吉康雄展」を比較、確認した。岡山大学教育学研究科研究集録第188号に掲載される。