2024年度 文明動態学研究所 共同研究プロジェクト 岩﨑志保
採択課題名
農牧接触地帯における動物利用と社会動態-中国先史・古代の動物意匠の分析をとおして-
メンバー一覧(氏名、所属)
岩﨑 志保 | 岡山大学・文明動態学研究所 |
今村 佳子 | 成城大学・民族学研究所 |
菊地 大樹 | 蘭州大学・歴史文化学院 |
研究の概要
考古資料に表された様々な動物意匠は、当時の人びとの動物に対する認識を反映したものであり、当時の動物利用の実態を示すものでもある。それらには地域的特徴を共有する一定の地域圏を認めることができる。
本研究では中国西北地域を取り上げる。古来より農耕民と牧畜民が絶えず接触を繰り返していた西北地域では、近年、動物考古学を含めた考古科学の分析成果が増加しており、先行研究で指摘されてきた文化圏を別の角度から重層的に検証できる素地が出来つつある。そこで、動物意匠のありかたと実際の動物利用について、時期を追って整理する。共通点・相違点を見出し、その背景となる社会および精神性の普遍性や変化を考えるものである。
研究実施状況
共同研究の申請にあたり、4月~5月に三者でメール会議を実施し、研究目的・対象範囲と時期について意見交換後、各自で資料収集を開始した。
今村佳子は先史時代の動物意匠を担当し、新石器時代後期を中心に、動物意匠のなかでも鳥を主眼に資料収集を進める。対象は当初黄河中・上流域〜渭水流域であり、比較検討のため、長江中・上流域も含めることとした。菊地大樹は先史時代以降の動物利用を担当し、対象地域は黄河上流域〜渭水流域も含めた農牧接触地帯である。岩﨑は墓葬装飾にみる動物意匠を担当し、時期・地域は先史~漢代までの農牧接触地帯を対象とする。
1月に対面での打ち合わせと情報共有を岡山大学にて実施した。
研究成果
今年度の研究期間内では立案と資料調査が主体であり、具体的な成果公開はまだない。
しかしながら、本研究が主として対象とする農牧接触地帯である中国西北地域は、農耕民と牧畜民との接触が繰り返されてきた地域であり、近年の考古資料の充実が増加しているものの、分析等は比較的低調である点に注目した。三者で担当する内容は異なるものの、都度情報交換を行い、特に下記の点について課題を見出し、具体的な検討を進めている。
・牧畜経済の受容という動物利用の変化により、考古資料に認められる動物意匠にどのような変化が看取されるか。この課題について牧畜文化の受容過程と変遷を明らかにし(菊地)、精神性の変化の有無を考える(今村・岩﨑)。遺物に表される意匠のほか、死者の埋葬にともなう事象に関しての変化の有無を確認することにした。
・新石器時代後期の地域間の差異・変化を追うため、動物意匠については、長江上流域を対象に含めて検討する(今村)。
・墓葬装飾の点では、時期を追って追究できる資料が限定的であることが判明してきており、逆に漢代から遡ることで、装飾の変化を追うこととした。対象として漢代に盛行する陝西省北部地域の画像石墓に認められる鳥・動物紋について分析をおこなう(岩﨑)。
そのほか、鳥の意匠で最高位となる鳥種の時代的な変化、また、地域により意匠に登場する動物種の変化等についても把握・検討を進めている。
今年度の研究成果の一部は、次年度7月のマンスリーセミナーで報告予定である。